日本で暮らしていると、「自分がアメリカ市民である」という意識が薄いまま大人になる人は少なくありません。特に、米国で生まれただけで自動的に米国籍を持っているケースでは、本人がその事実を深く理解していないこともよくあります。
そして、ある日ふとしたきっかけで知るのです。
「アメリカ市民って、海外に住んでいても毎年タックスリターンが必要なの…?」
驚くのも無理はありません。
でも、安心してください。これはよくあるケースであり、きちんと救済制度が用意されています。
この記事では、米国生まれ・日本育ちの方がタックスリターン義務を知らずに過ごしていた場合、どう対処すればいいのかを整理します。
1. なぜ海外在住でも米国のタックスリターンが必要なのか?
アメリカは世界でも珍しい市民権ベース課税(citizenship-based taxation)を採用しています。
つまり、
- どこに住んでいても
- どこで収入を得ていても
- 外国で税金を払っていても
米国市民である限り、毎年 Form 1040 の提出義務があるという仕組みです。IRSのこちらの記事もご確認ください。
2. 義務を知らなかった人のための救済制度:Streamlined Filing Compliance Procedures
IRS は、海外在住者が義務を知らずに未申告のままになってしまうケースを想定し、
Streamlined Filing Compliance Procedures(通称 Streamlined)という救済制度を用意しています。
Streamlined のポイント
- 過去 3 年分のタックスリターンを提出
- 過去 6 年分の FBAR を提出
- 「故意ではなかった(non-willful)」という声明を提出
- 海外居住者は ペナルティ免除
- 追加税額があっても通常は 利息のみ
3. 実際の進め方:まずは現状を整理することから
ここからは、実務でよくある流れを紹介します。
① 本人が米国籍を持っているか確認する
- 米国出生
- 親の国籍
- パスポートの有無
- SSN(社会保障番号)の有無
SSN がない場合は取得からスタートします。
② 過去の収入・資産を整理する
- 日本の給与
- 日本の銀行口座(FBAR 対象)
- 投資口座
- NISA・iDeCo(PFIC の可能性あり)
- 会社の持分
「何を IRS に報告する必要があるのか」を一つずつ確認します。
③ Streamlined の適用可否を判断する
- 故意でなかったか
- 米国居住日数
- 申告義務を知らなかった合理的理由があるか
ほとんどの日本育ちの米国籍者は、この条件を満たします。
④ 必要書類をまとめて一括提出
- 3 年分の Form 1040
- 6 年分の FBAR
- Non-willful statement
- 必要に応じて Schedule C(個人事業の場合など), Form 2555やForm 1116 、Form 8938、3520/3520-A など
一度にまとめて提出するのが Streamlined の特徴です。
4. 放置するとどうなる?
義務を知らなかっただけでも、放置し続けるとリスクが高まります。
- FBAR の罰金(最大口座残高の 50%)
- FATCA により銀行から IRS に情報が渡る
- 将来の米国入国時に問題化する可能性
- 市民権放棄(renunciation)時に過去 5 年のコンプライアンスが必須
「知らなかった」は救済されますが、「知った後に放置した」は救済されません。
まとめ:知らなかった人には“やり直せる仕組み”がある
米国生まれで日本育ちの人がタックスリターン義務を知らないまま大人になるのは、決して珍しいことではありません。
そして IRS もそれを理解しているからこそ、Streamlined という制度が存在します。
大切なのは、
- 怖がらずに現状を整理すること
- 正しい手順で過去を修正すること
これだけです。
